こども性暴力防止法
犯罪事実確認で確認されるのは、すべての犯罪歴ではありません。対象となる犯罪や期間、採用時の対応、犯罪事実が確認された場合の雇用上の対応まで整理します。
2026年12月25日から始まるこども性暴力防止法では、保育所、認定子ども園、児童発達支援、放課後等デイサービスなどの対象事業者が、子どもと接する対象職員について犯罪事実確認を行います。
制度の説明を聞くと、
「犯罪歴があったら採用できない、働けないの?」
「昔の犯罪まで全部分かるの?」
「内定を出した後に分かったら取消しできる?」
「今働いている職員から犯罪事実が出たら解雇するの?」
という疑問が出てくると思います。
まず押さえておきたいのは、犯罪事実確認で確認されるのは、すべての犯罪歴ではないということです。
また、犯罪事実が確認されたからといって、法律上当然に雇用契約が終了するわけでもありません。
対象になる犯罪や期間、採用時の対応、犯罪事実が確認された場合の内定取消しや配置転換・解雇まで見ていきましょう。
すべての犯罪歴が確認されるわけではありません
こども性暴力防止法の犯罪事実確認で対象になるのは、法律で定められた「特定性犯罪」についての前科です。
例えば、窃盗罪など性犯罪以外の犯罪で有罪になったことがあっても、それだけで「特定性犯罪事実該当者」になるわけではありません。
また、不起訴や示談になった場合についても、刑事裁判による事実認定を受けていないため、犯罪事実確認における特定性犯罪事実該当者には該当しません。
この点は、事業者だけでなく職員にもきちんと説明しておいた方がよいと思います。
「犯罪事実確認」という言葉だけを聞くと、過去のあらゆる犯罪歴や警察との関わりまで会社に調べられるような印象を持つ人もいるかもしれません。
犯罪事実確認の範囲
すべての犯罪歴を調べる制度ではなく、法律で定められた性犯罪について、一定期間内の前科を確認する制度です。
対象になる「特定性犯罪」とは?
特定性犯罪には、例えば次のような犯罪が含まれます。
- 不同意性交等
- 不同意わいせつ
- 監護者わいせつ・監護者性交等
- 児童買春
- 児童ポルノ所持等
- 盗撮
- 痴漢
- 未成年者に対する淫行
- 16歳未満の者に対するわいせつ目的での面会要求など
刑法だけではなく、児童福祉法、児童買春・児童ポルノ法、性的姿態撮影等処罰法、一定の都道府県条例違反なども含まれます。
また、子どもを被害者とする性犯罪だけが対象ではありません。
成人に対する不同意性交や不同意わいせつなども、特定性犯罪に含まれます。
一度でも性犯罪歴があれば一生対象になる?
犯罪事実確認の対象となる期間も法律で決められています。
-
✓
拘禁刑の実刑:20年
刑の執行終了等から20年 -
✓
拘禁刑の執行猶予:10年
裁判確定から10年 -
✓
罰金刑:10年
刑の執行終了等から10年
法律が定める特定性犯罪について、この期間内にある人が「特定性犯罪事実該当者」になります。
職員へ制度を説明するときにも、この期間まで含めて説明した方が、必要以上の不安を与えずに済むと思います。
犯罪事実が確認されたら、その人は働けない?
ここは分けて考える必要があります。
犯罪事実確認の結果、特定性犯罪事実該当者であることが確認された場合には、事業者は児童対象性暴力等を防止するための防止措置を講じなければなりません。
基本となる対応は、その職員を子どもと接する対象業務に従事させないことです。
雇用上の対応
「対象業務に従事させない」=「解雇する」ではありません。
法人内に子どもと接しない仕事がある場合には、業務範囲や勤務場所の変更、配置転換などを検討します。複数の事業を行っている法人であれば、出向や転籍が選択肢になる場合もあります。
そして、犯罪事実が確認されたからといって、その事実だけで簡単に解雇できるわけでもありません。
こども家庭庁は、普通解雇について、配置転換等によって対象業務から外す方法を十分に検討したうえで、それでも他に選択肢がない場合に検討する考え方を示しています。配置転換等を検討せずに解雇した場合には、解雇が無効となる可能性もあります。
最終的には、事業所の規模や業務内容、配置転換の可能性、雇用契約の内容などを踏まえて、個別に判断することになります。
犯罪事実確認は内定前にはできません
新たに職員を採用する場合、ここが重要です。
犯罪事実確認は、応募者全員に対して行えるものではありません。
犯罪歴は非常に慎重な取扱いが必要な情報であるため、本人が同意したとしても、対象業務に従事することが決まっていない段階では犯罪事実確認を行うことはできません。
対象業務への採用・配置が決まった後、実際に対象業務へ従事するまでの間に正式な犯罪事実確認を行います。
だからこそ、その前段階での求人票や誓約書などの整備が重要になります。
採用時に性犯罪歴を確認しておく
施行に向けて、採用手続も見直しておきたいところです。
具体的には、
-
✓
募集要項・求人票
特定性犯罪前科がないこと等を採用条件として明示する -
✓
誓約書・履歴書等
特定性犯罪前科の有無を明示的に確認する -
✓
内定通知書
「重要な経歴の詐称」等を内定取消事由として定める
といった対応です。
こども家庭庁からは、募集要項・求人票、誓約書・内定通知書、就業規則について公式の参考例も公開されています。
本人が性犯罪歴を正直に申告した場合は?
例えば採用選考の際に、
「特定性犯罪前科があります」
と本人から申告があった場合です。
この場合、本人は虚偽の申告をしているわけではありませんので、「重要な経歴の詐称」という問題にはなりません。
一方、子どもと接する対象業務について、特定性犯罪事実該当者でないことを採用条件として明示しているのであれば、その採用条件を満たさないものとして採用しないことを検討することになります。
もちろん、法人内に子どもと接しない別の業務があり、本人をそちらで採用することが可能であれば、そのような働き方を検討する余地もあります。
大事なのは、犯罪歴を申告したことそのものと、対象業務に従事できるか、雇用そのものを継続できるかを分けて考えることです。
虚偽の誓約が発覚した場合
採用時に、
「特定性犯罪前科はありません」
という誓約書を提出してもらい、その後の犯罪事実確認で実際には特定性犯罪前科が確認された場合です。
採用選考で特定性犯罪前科の有無を明示的に確認し、本人が虚偽申告や黙秘をしており、内定通知書や就業規則等に「重要な経歴の詐称」を内定取消しや懲戒等の事由として定めている場合には、「重要な経歴の詐称」に該当すると考えられると、こども家庭庁は示しています。
状況に応じて、内定取消しや採用後の懲戒等を検討することになります。
ただし、誓約書に虚偽があったからといって、自動的に内定取消しや解雇が有効になるわけではありません。
実際の対応は、事前にどのような採用条件を示していたか、本人に何を確認していたか、就業規則にどのような規定があるかなどを踏まえて判断する必要があります。
そもそも採用時に何も確認していなかったら?
「求人票には何も書いていなかった」
「誓約書も取っていなかった」
「面接でも特定性犯罪前科について確認していなかった」
その状態で内定を出した後、犯罪事実確認によって特定性犯罪前科が判明した場合です。
本人はそもそも質問されていないため、簡単に「経歴を詐称した」とはいえません。
こども家庭庁も、採用時に特定性犯罪前科の有無を明示的に確認していなかった場合、その事実だけで内定取消しや解雇の合理性・相当性が認められるわけではないとしています。
一方で、特定性犯罪事実該当者であることが確認された以上、防止措置として原則その人を対象業務には従事させません。
ここで事業者が困ることになります。
施行前の準備
犯罪事実が確認された後に困らないよう、犯罪事実確認が始まる前に採用手続を整えておくことが重要です。
いとま特例ですでに働き始めていた場合は?
いとま特例を利用した場合は、犯罪事実確認が終わる前から職員が対象業務に従事することがあります。
その後の犯罪事実確認で特定性犯罪事実該当者であることが分かった場合も、まず防止措置として、その人を対象業務に従事させない対応が必要になります。
さらに、採用時に特定性犯罪前科がないことを明示的に確認していたにもかかわらず、本人が虚偽の申告をしていた場合には、「重要な経歴の詐称」として就業規則上の懲戒事由等に該当する可能性があります。
すでに雇用が始まっている場合
「犯罪事実が確認されたからその場で解雇」という扱いにはできません。
採用時にどのような確認をしていたか、就業規則にどのような規定があるか、配置転換等が可能かなどを確認したうえで、個別に対応を検討する必要があります。
いとま特例を利用する可能性がある事業所ほど、採用時の誓約書や就業規則をあらかじめ整えておく意味があります。
今働いている職員から犯罪事実が確認されたら?
施行時点ですでに働いている職員については、さらに慎重な対応が必要です。
例えば、これまで採用時に特定性犯罪前科の有無を確認していなかった職員について、犯罪事実確認を行ったところ特定性犯罪事実該当者であることが判明した場合です。
この場合も、犯罪事実が出たから即解雇ではありません。
まず、その人を対象業務に従事させないことを前提として、
- 業務範囲の変更
- 勤務場所の見直し
- 配置転換
- 出向
- 転籍
など、雇用を継続できる方法を検討します。
それらを十分検討しても他の選択肢がない場合には、普通解雇を検討することになります。
ただし、解雇が有効かどうかは、最終的には個別の事情から判断されます。こども家庭庁も、配置転換等の解雇回避措置を検討したかどうかが重要な要素になり得るとしています。
特に小規模な保育所や児発・放デイでは、
「対象業務以外の仕事がほとんどない」
というケースもあると思います。
その場合でも、その場で解雇通知を出すのではなく、実際に代替できる業務がないのか、雇用契約上どこまで配置転換が可能なのかなどを確認したうえで対応する必要があります。
求人・採用の段階から準備しておく
難しいのは、実際に特定性犯罪前科が確認されたときです。
「求人票には何も書いていなかった」
「誓約書も取っていなかった」
「内定取消しの規定もない」
「就業規則にも何も書いていない」
となると、対応しにくくなります。
施行前に確認しておきたいのは、次の流れです。
-
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求人票・募集要項
特定性犯罪前科がないこと等を採用条件として明示する -
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採用選考
誓約書等を使って特定性犯罪前科の有無を明示的に確認する -
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内定
内定通知書に「重要な経歴の詐称」等の内定取消事由を定める -
✓
採用後
懲戒事由や配置転換等について就業規則を確認する
こども家庭庁も、この採用手続に対応した公式の参考例を公開しています。
事業所の実際に合わせた規程等の整備を
実際には、事業所ごとに採用方法や雇用契約が違うため、公式の参考例をそのまま当てはめれば終わりというわけではありません。
例えば、
- 職種を限定して採用しているか
- 法人内に配置転換できる仕事があるか
- 現在の就業規則の懲戒事由がどうなっているか
- 内定通知書と誓約書の内容が整合しているか
によって、犯罪事実が確認された場合の対応も変わります。
採用制度まで含めて準備
「犯罪歴があったら辞めてもらえばいい」では済まないからこそ、犯罪事実が確認された場合まで想定して採用制度を作っておくことが大切です。
採用書類・就業規則まで含めて施行前に準備を
まつうら行政書士・社会保険労務士事務所では、保育所、認定子ども園、児童発達支援、放課後等デイサービスなどを対象に、こども性暴力防止法への対応を支援しています。
犯罪事実確認の申請だけではなく、募集要項・求人票、誓約書、内定通知書、就業規則まで含めて、犯罪事実が確認された場合にも対応できる採用フローを整備します。
特に内定取消しや配置転換、解雇などは、書類に一文を追加すれば必ず有効になるものではありません。
現在の採用方法や雇用契約、就業規則まで確認したうえで、実際の事業所で使える形にしておくことが重要です。
こども性暴力防止法・スポット支援パッケージ
80,000円
施行に向けて、主に次の内容をまとめて整備します。
- 就業規則・関連規程の改定
- 募集要項・求人票の見直し
- 採用時の誓約書・内定通知書等の整備
- 採用から犯罪事実確認までの流れの整理
- 犯罪事実が確認された場合の対応フローについてのアドバイス
公式の参考例をそのまま渡すのではなく、現在の就業規則や採用方法を確認し、実際の事業所で運用できる形に整えます。
「今使っている求人票や誓約書で対応できるか確認したい」「内定取消しや就業規則の規定まで見直したい」といった場合もご相談ください。



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