有給消化中に転職先で働くと社会保険は二重加入?年金事務所の調査で指摘されやすいケース

前職を退職する前に有給休暇の消化に入り、その間に転職先で働き始めるケースがあります。

このとき、社会保険の手続きで間違いが起きることがあります。

「まだ前の会社で社会保険に入っているから、うちでは前職を退職してから加入させればいい」

「前職を退職するまではアルバイト扱いにして、退職後に社会保険へ切り替えればいい」

と考えている会社もあるのではないでしょうか。

結論からいうと、新しい会社でも社会保険の加入要件を満たしているのであれば、前職の社会保険が残っていても、新しい会社でも資格取得が必要です。

つまり一定期間、2つの会社で社会保険に加入することになります。

年金事務所の調査でも確認されやすいところです

「前職の社会保険が残っていたので資格取得を遅らせた」という処理は、年金事務所の調査で雇用契約書、賃金台帳、出勤簿などを確認するとわかります。資格取得日と実際の雇用状況が合っていない場合は、後から指摘を受ける可能性があります。

有給消化中はまだ前の会社の社員

まず前提として、退職前に有給休暇を消化している期間は、実際に出勤していなくてもまだ前の会社に在籍しています。

たとえば次のようなケースです。

  • 前職の退職日:7月31日
  • 7月15日から31日まで有給消化
  • 転職先で7月16日から勤務開始

前の会社の社会保険資格は7月31日まで続き、資格喪失日は8月1日になります。

一方、新しい会社では7月16日から勤務を開始しています。

新しい会社でも社会保険の加入要件を満たしているのであれば、新しい会社でも資格取得の手続きが必要です。

そのため、この例では7月16日から7月31日まで、前職と転職先の両方で社会保険の資格を持つ期間が生じます。

社会保険は「1人につき1社」ではない

ここは勘違いされることが多いところです。

社会保険は、1人につき1社しか加入できない制度ではありません。

2つの会社で同時に社会保険の加入要件を満たす場合は、それぞれの会社で資格取得をしたうえで、「二以上事業所勤務」として処理します。

そのため、

「前職ですでに社会保険に入っているから、新しい会社では加入できない」

という考え方ではありません。

前職でも加入、新しい会社でも加入という状態は制度上あり得ます。

社会保険料も二重にかかる

2社で社会保険に加入すると、当然気になるのが社会保険料です。

二以上事業所勤務の場合は、それぞれの会社から受ける報酬を合算して標準報酬月額を決定し、その保険料を各社の報酬額に応じて按分します。

ただ、標準報酬月額の上限に達するようなケースでなければ、実際には前職の給与にも、転職先の給与にも、それぞれの報酬に応じた社会保険料がかかることになります。

そのため、本人の感覚としても、会社側の実務としても、社会保険料が2社分かかると考えた方がわかりやすいでしょう。

「前の会社で払っているから、新しい会社では払わなくていい」ではありません

前職と転職先の両方で社会保険の加入要件を満たしていれば、両方で資格取得が必要です。加入期間が重なる間は、前職だけでなく転職先側にも社会保険料の負担が生じます。

厚生年金については、2社から受ける報酬を合算した標準報酬月額が年金記録にも反映されるため、その分は将来の年金額にも反映されます。

ただ、有給消化中の数日から数週間だけ重複するようなケースであれば、将来の年金額への影響はそれほど大きくないことも多いでしょう。

「とりあえずアルバイト扱い」なら加入しなくていい?

これもよくある考え方です。

「前職を退職するまではアルバイトにして、8月1日から正社員として社会保険に入れよう」

しかし、「アルバイト」という名称にすれば社会保険に加入しなくてよいわけではありません。

正社員、契約社員、パート、アルバイトといった名称ではなく、実際の労働条件によって社会保険の加入対象になるかを判断します。

正社員の所定労働時間・所定労働日数の4分の3以上働く場合は、アルバイトやパートという名称でも原則として加入対象になります。

また、4分の3未満であっても、短時間労働者として社会保険の加入要件を満たす場合があります。

そのため、7月中の働き方がすでに社会保険の加入要件を満たしているのであれば、単に「アルバイト扱い」にして資格取得を8月1日まで遅らせることはできません。

資格取得日は会社が自由に決められるものではない

社会保険の資格取得日は、会社が都合のいい日を選んで決められるものではありません。

基本的には、雇用契約や実際の勤務状況などから、事実上の使用関係が発生した日をもとに判断します。

たとえば7月16日から雇用契約が始まり、実際に勤務し、給与も7月16日から発生しているにもかかわらず、

「前の会社を7月31日に退職するから、社会保険の資格取得日は8月1日にしておこう」

という処理はできません。

試用期間だから社会保険の資格取得を遅らせる、という処理についても同じです。

調査では勤務開始日を確認される

資格取得届を提出するときには、前職の社会保険が残っていることまで細かく確認されず、そのまま手続きが進むこともあります。

しかし、年金事務所の事業所調査では話が変わります。

年金事務所の調査では、社会保険に加入すべき社員が正しい時期から加入しているかについても確認されます。

実際の勤務開始日は、

  • 雇用契約書
  • 出勤簿・勤怠記録
  • 賃金台帳
  • 給与の支給状況

などを見れば確認できます。

特に、

  • 前職の退職日までは社会保険に加入させていない
  • 試用期間が終わってから資格取得している
  • アルバイト扱いという理由だけで資格取得を遅らせている
  • 実際の勤務開始日より資格取得日が後になっている

といったケースは、勤務実態と資格取得日を比較するとわかります。

年金事務所から指摘を受ければ、正しい資格取得日まで遡って手続きを訂正し、社会保険料についても遡って精算することになります。

「前の会社で社会保険に加入していたから」という理由は、新しい会社で資格取得しなかった理由にはなりません。

入社前に確認したいポイント

この問題は、給与計算や社会保険の手続きをするときになってから発覚するよりも、採用時に確認しておいた方が楽です。

転職者を採用するときは、少なくとも次の点を確認しておくとよいでしょう。

1

前職の退職日はいつか

最終出勤日ではなく、正式な退職日を確認します。

2

有給消化中ではないか

出勤していなくても、有給消化中であれば前職にはまだ在籍しています。

3

自社での雇用開始日はいつか

雇用契約の開始日と実際の勤務状況を確認します。

4

社会保険の加入要件を満たすか

「アルバイト」という名称ではなく、実際の労働時間や労働日数などから判断します。

前職の退職日より前に転職先で勤務を開始すること自体と、社会保険の手続きは分けて考える必要があります。

新しい会社でも加入要件を満たすのであれば、前職を退職するまで待つのではなく、正しい資格取得日で手続きを行います。

2社で加入する期間は「二以上事業所勤務」の手続きをする

前職と転職先の両方で社会保険の加入要件を満たす期間が生じた場合は、二以上事業所勤務として処理します。

それぞれの会社で資格取得の手続きを行ったうえで、本人が主たる事業所を選択し、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出します。

この届出は、原則として事実発生から10日以内です。

その後、2社の報酬月額を合算して標準報酬月額が決定され、各社の報酬額に応じて保険料が按分されます。

標準報酬月額の上限に達しない通常のケースでは、結果として前職・転職先のそれぞれの報酬に応じて社会保険料がかかることになります。

前職の社会保険を残したまま、新しい会社の加入を後回しにするのではなく、2社で加入して正式な手続きを行うのが正しい処理です。

まとめ

前職の有給消化中に転職先で働き始める場合、前職で社会保険に加入しているからといって、新しい会社で社会保険に加入しなくてよいわけではありません。

新しい会社でも社会保険の加入要件を満たしているのであれば、前職の資格が残っていても新しい会社でも資格取得が必要です。

前職の社会保険が残っている

転職先で社会保険に入らなくていい

「アルバイト扱いだから」「前職をまだ退職していないから」という理由だけで資格取得日を後ろにずらすこともできません。

加入期間が重なるのであれば、2社それぞれで資格取得をして、二以上事業所勤務として処理します。

年金事務所の調査では、雇用契約書、賃金台帳、出勤簿などから実際の勤務開始日を確認できます。後から遡って訂正することにならないよう、転職者を採用するときには前職の退職日と自社での雇用開始日を確認しておきましょう。

社員の入退社・社会保険手続きをサポート

社会保険・雇用保険の手続きにも対応しています

まつうら行政書士・社会保険労務士事務所では、社員の入社・退職、社会保険・雇用保険の手続きに対応しています。

「いつから社会保険に加入させればいいのかわからない」といった入社時の確認についてもご相談いただけます。

社員に関する手続きについて詳しく見る

参考

  • 日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」
  • 日本年金機構「社会保険事務のポイント(届出誤りの実例)」
  • 日本年金機構「届出等における添付書類の取扱いの変更について」
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次