全財産を妻に遺したい! 思いを実現する遺言書の書き方を紹介します

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自分の考えるとおりに財産を分配したい

「財産がたくさんあるわけではないけれど、自分にもしものことがあったとき、残された家族の生活が心配」「前妻との間に子どもがいるけれど、関係は疎遠になっているから尽くしてくれた妻に全財産を遺したい」

そんな不安や悩みを抱えていませんか? それはあなただけではありません。

法務省の調査(平成30年)では、55歳以上の全ての世代の約3割が「遺言書を作成したい」と考えており、その目的について8割強が「自分の考えるとおりに財産を分配したいため」と回答しています。

つまり、自分の考えるとおりに財産を分配するために遺言書が必要だと多くの人が考えているのです。

この記事では、「自分の考えるとおりに財産を分配する」ために、どのように遺言書を作成すればよいのか、その基本について説明します。特に「妻(もちろん夫でも)に全財産を遺したい」という家族思いの読者の皆さんは必見です。

その思い、遺言書で実現できます

特定の相続人、ここでは妻(配偶者)に全財産(*)を残す遺言ができるかどうか。

結論からいえば、それは可能です。

生前は自由に処分できた自分の財産を、遺言という最後の意思表示によって処分するわけですから、どのように処分しようと自由であるという「遺言自由の原則」があるからです。

もちろん、「遺言をする・しない」「変更や撤回をする・しない」などの自由も含まれています。

「誰に」「どの財産を」「どれだけ」遺すかどうかは本人の自由というわけです。

*公営住宅の使用権や生活保護受給権など、個人の人格や才能、地位と切っても切り離せない権利義務を「一身専属権」といい、そもそも相続財産には含まれません)

注意点

「愛人に遺贈する」など、公序良俗に反する遺贈はできません

もっとも判例では、遺贈が愛人の生活の支えるためであり、相続人の生活を脅かさない範囲であることから公序良俗に反しないとしたものや、逆に生活を支える目的でも、妻への財産分与をまぬがれたいと全財産を愛人に遺贈したものを無効としたものなどさまざまです。

自筆よりも公正証書

遺言書をつくる場合、選択肢としては「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の二つがあげられます。
二つの詳しい違いについては別記事に譲るとして、ここでは断然、公正証書遺言をおすすめしておきます。

自筆証書遺言

…本人が「全文」「日付」「氏名」を自書し、「押印」が必要です。
作成費用がほとんどかからないというメリットがあります。

自筆証書遺言を作成したい理由としては、「自分だけで手軽に作成(書き換え)することができる」「作成の費用があまりかからない」「誰にも知られずに作成することができる」などが挙げられます。しかし、その反面として、本人の意思で作成したのかどうか証明することが非常に困難になります。紛失や偽造の危険性も避けられません。

また、相続開始後に家庭裁判所による「検認」が必要(*)で時間がかかってしまうのです。

相続人の負担はできるだけ軽くしたいですよね。

*検認…新しくはじまった「遺言書保管所」に保管された遺言書は検認の必要がなくなります。

公正証書遺言

公証人と証人(2人以上)の立ち会いのもとで作成されます。

本人の意思を確認し、証人の面前で作成されるため、検認なしで遺言を執行できます

公正証書遺言を作成したい理由としては「法律の専門家である公証人が確実に有効な遺言書を作成してくれる」「保管が確実で、偽造、改ざんなどのおそれがない」「家庭裁判所による検認の手続の必要がない」などが挙げられます。

反面、作成の費用や手数料がかかるため本人の負担は大きくなります。

遺言の信憑性の確保、すみやかな遺言の執行、相続人の負担の大きさを考えた場合には、公正証書遺言に軍配が上がるのではないでしょうか。「妻に全財産を遺したい」というような、特定の相続人に多くの財産を相続させたい場合は特に信憑性の確保が必要だと考えます。

文案例は以下の通りです。至ってシンプルですね。

第◯条 遺言者は、遺言者所有のすべての財産を、妻◯◯に相続させる。

想定されるトラブルは?

さて、「全財産を妻に遺す」旨の遺言書ができました。

しかし、「これで一安心」とはいかないのがつらいところです。
このような、特定の相続人に多くの財産を遺す内容の遺言が執行される場合に、想定されるトラブルはどんなものがあるでしょうか。

それは相続人の「法定相続分」を侵害してしまうことです。

民法では一定の範囲の法定相続人の生活を保障するため、その人たちが最低限相続できる財産(これを遺留分と呼びます)を保証しています。その範囲は配偶者・子・直系尊属(父母・祖父母など*)です。

遺留分の比率は、遺留分の権利をもつひとの構成できまります。

  • 直系尊属のみの場合は財産の3分の1
  • それ以外(配偶者と子など)は2分の1

相続開始時の財産に、相続開始前1年以内の生前贈与財産を加えたものから、債務を引いた分に、この比率をかけると遺留分が計算できます。

遺言そのものは有効です

「やっぱり全財産を遺すのはできないのか」と思った方、そう思うのも無理はありませんが、厳密にいうとそうではないのです。

この「遺留分」を求めることを「遺留分侵害請求」といいます。遺留分侵害請求は、その意思表示があってはじめて行われるものであり、遺言執行の際に当然に行われるものではないからです。

つまり、遺言で財産を遺さないと暗に示された相続人が声をあげてはじめて、遺留分を計算することになるのです。

遺留分を侵害している遺言であっても、法的要件を備えていれば遺言自体は有効ということです。

*子がいる場合、直系尊属は相続人とならないため遺留分権利者とはなりません

トラブルを回避するための書き方

それでも、本人亡き後に親族がもめるようなことはあってほしくないですよね。
トラブルを回避するような遺言書は作れないのでしょうか。

もちろん遺言執行は本人亡き後のことですので、限界はあります。
しかし例えば、以下のような文言・付言を採用することで、少しでも本人の気持ちを理解してもらうと良いのではないかと考えます。

第◯条 遺言者は、その有するすべての財産を換価処分し、遺言者の残債務、相続に関する費用、遺言執行に関する費用、遺言者の葬儀費用、納骨費用等をすべて支払った後の残額を、すべて妻◯◯に相続させる。

全財産を相続させる場合、借金などのマイナスの財産も相続させることになります。マイナスの財産は相続分に応じて割り振られるからです。マイナスの財産に関する処分がすべて行われた後の残額を配分するという遺言にすれば、妻と親族等の間で紛争がおきることを抑止する可能性が高まるかもしれません。

付言

付言事項を付け加えるという手もあります。

私が亡き後、妻◯◯の収入は年金以外にほとんどありません。そのため、私の全ての財産を妻に相続させることにしました。以上のことを皆理解してください。私が亡き後も家族仲良く協力して、幸せな人生を送ってください。

付言は法的効果はありませんが、遺言の内容にかかわる心情をあらわすのに効果的です。
くれぐれも他の相続人を刺激するような内容は入れないように注意しましょう

高齢の妻の生活に配慮した法改正がありました

「妻(配偶者)に全財産を遺したい」という遺言には、「これまでに尽くしてくれた妻に報いたい」という思いが込められています。最近の法改正で、そのような思いを後押しする制度が設けられました。

民法改正(2018年7月)により、新たに「配偶者居住権」という権利が設けられました。これはのこされた配偶者のために、居住する建物の使用権限(処分権限はない)が認められ、所有権を取得する場合よりも低い価額で居住権を確保することを目的とするものです。

従来であれば、所有権を取得しなければ住み続けられず、所有権を取得すると高額な遺贈を受けたことにより配偶者の相続分に影響を与えてしまっていました。

さらに、婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、例えば夫が妻に居住用の建物やその敷地を遺贈や生前贈与したときは、その不動産の金額を、遺産分割の妻の取り分として含めずに計算することが可能になりました。つまり、配偶者の遺産分割による取得額が増えることになります。

法改正の趣旨としては、贈与等が行われた場合は、それまでの貢献に報いることや、老後の生活補償の趣旨であろうと考えられるため、高齢の配偶者の居住権の保護を図ることが重要だというものです。

まとめ

これまでのお話を振り返ると、

・「誰に」「どの財産を」「どれだけ」遺すのかは本人の自由
・「遺言をする・しない」「変更や撤回をする・しない」なども本人の自由
・形式としては、自筆と公正証書によるものがあり、信憑性の高さから公正証書遺言がおすすめ
・相続人の最低限の生活保障としての「法定相続分」を侵害する内容の遺言も有効
・ただし遺留分侵害請求される可能性がある

以上です。

遺産相続をスムーズに行うために遺言を遺しておくことは非常に大切です。

ご自身亡き後にどのような家族関係を構築してほしいのか、生活を送ってほしいのか。

自分の考えるとおりに財産を分配する」ために、ぜひ遺言を作成してみてください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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