自分で遺言書をつくってみたい
「自分の思うとおりに財産を分配したい」
遺言はその願いを実現する力になります。
相続のトラブルを回避し、残された家族の負担を少なくするためにも、遺言を残すことは大切です。
しかし、いざ書こうと思っても、
「法律用語が分からないから難しそう」「何から書いたらいいのか分からない」
と悩んでしまう人が多いのではないでしょうか。
また書き終えた後でも、本当に遺言書の内容が実現されるのか不安に思う方もいます。
「専門家に頼む前にまずは自分で書いてみたい」
そんな思いを後押しするために、「これだけ押さえれば大丈夫」というポイントをしぼって、できるだけ分かりやすく書き方を紹介します。
この記事を読むと
例文を参考に書くことでかんたんに自筆の遺言書を作ることができる
遺言をスムーズに実現するための保管方法や考え方が分かる
用意するものから丁寧に解説していますので、書き方だけが知りたいという方は目次からとんでくださいね。
これを機に、費用もほとんどかからない自筆の遺言を気軽に書いてみませんか?
遺言書の内容は共通です
遺言書の種類は大きく2つにわかれます。
今回紹介するのは、自分で書く「自筆証書遺言」です。
他にも、証人の立ち会いのもとで作成する「公正証書遺言」というものもあります。
二つのメリットとデメリットを比較した記事もありますのでご覧ください。
大きな違いは保管方法などです。今回紹介する「書き方」は基本的にどちらでも通用します。
書く前に用意するもの
それではまず、書く前に用意するものです。
・A4の用紙
(普通の用紙でも良いが厚手の便せんなどが最適。罫線はOKですが文字がよみにくくなる模様はNGです)
・印鑑(認印でも良いが、インクが内蔵されたスタンプ印はNG。実印の方が信ぴょう性が高くなります)
・封筒(封をする前の注意点もあります)
・ボールペンや万年筆(消えるインクは使わないようにしましょう)
財産にかかわる書類は以下のようなものを用意します。
・銀行の通帳(銀行名、支店名、口座名、口座番号が記載されたページの写し)
・不動産の登記簿謄本(履歴全部事項証明書)や固定資産税納税通知書
・貸金庫の資料(銀行名や支店名がわかるもの)、ゴルフ会員権、自動車車検証 など
A4用紙で新しい遺言保管制度に対応させましょう
令和2年から新しい遺言保管制度がはじまりました。
これによって、「遺言書発見後、裁判所の手続きが必要で時間がかかる」「なくなったり、偽造されたり、隠されたり捨てられたりする危険がある」という自筆の遺言書の最大のデメリットがなくなりました。
・裁判所の手続きが不要で、遺言の実現がスピーディに
・法務局で保管されるので、紛失や偽造の危険がない
新制度の様式と用紙ダウンロード
これから新しく遺言書を作るのであれば、新制度を利用できる様式で作りましょう。
とはいえその様式も単純なものです。
書き方の注意点があります。
・余白が最低限、上5mm以上、下10mm以上、左20mm以上、右5mm以上
・たて書きでも横書きでもよい
・各ページにページ番号をふる(必ず余白内に書きます)
・片面だけに書く
・数枚にわたるものでもとじ合わせない
以上です。
こちらの法務省のサイトから用紙をダウンロードして印刷することもできます。
https://www.moj.go.jp/MINJI/common_igonsyo/pdf/001321932.pdf
遺言書を書く上で大切な4つのポイント
さて、準備ができたら実際に書いていきます。
遺言書は法律でその形式や内容が決まっており、それを踏まえなければ効力を発揮しません。
ここからは遺言書を書く上ではずせない、大切な4つのポイントを紹介します。
1、全文を自筆で書く
「自筆証書遺言」最大の特徴は、その全部の文章を自分で手書きしなければならないということです。
「手書き」ですので、パソコンで書くのもNGです。
病気や高齢で体力が落ちているなど、全文を自力で書けない場合もあると思います。
あとで紹介する文例は、できるだけ簡単で短いものですが、それでも難しい場合は、パソコン等で打ち出したものに署名・押印をするだけでよい「公正証書遺言」の作成を検討してください。
「全文」には、日付や氏名も含まれます。
2、正確な日付を
遺言の作成日付は、日付が特定できるように正確に記入します。
「吉日」など具体的な日付が特定できない書き方はNGです。
3、氏名も正確に
戸籍どおりの氏名を書きます。
法律上は、本人を特定できればペンネームでもよいとされますが、新しい保管制度を利用する場合は戸籍どおりの氏名を書かなければなりません。
4、押印が必要です
認印でも良いですが、インクが内蔵されたスタンプ印ではいけません。
実印であれば信ぴょう性が高まります。
まとめると
・全文を手書きで自分で書く
・日付、氏名を正確に書く
・押印が必要
以上が自筆の遺言をつくる際にもっとも大切なポイントです。
これだけは書いておきたい遺言書の内容
これで、準備と心がまえができましたので、これから実際に書いていきましょう。
「これだけは書いておきたい」という項目は以下のとおりです。
・題名「遺言書」と宣言「遺言者 ◯◯(名前)は、次のとおり遺言する。」を最初に記入
・「誰に」「何を」「どれくらい」相続させるか
・「その他すべての財産」を相続させる人
・遺言の内容を実現する人(遺言執行者)
・葬儀やお墓の管理をする祭祀主宰者は誰か
・付言
・日付
・署名押印
法律ではその他にも、「虐待されたので相続させたくない」ときの規定や、相続人に指定した人が先に亡くなった場合の予備的遺言など、遺言書に書くことができるたくさんの項目が決められています。
今回は「これだけ押さえておけば大丈夫」というものにしぼってお伝えします。
題名と宣言
遺言書
遺言者 田中一郎は、次のとおり遺言する。
「誰に」「何を」「どれくらい」相続させるか
遺言書の核となる部分です。
財産の種類はさまざまですが、ここでは代表的な、不動産(土地、建物)・銀行の預貯金・株式・現金を例にご紹介します。
「相続させる」と「遺贈する」
書き方の共通ポイントとしては以下のとおりです。
相続人の場合は「相続させる」と書く
相続人以外の場合は「遺贈する」と書く
土地を相続させる、遺贈する場合
土地は「所在」と「地番」を書きます。
登記簿謄本どおりに「地目」や「地面積」も記入します。
第◯条 遺言者は、遺言者所有の次の不動産を、遺言者の妻田中花子に相続させる
(1)土地
所在 東京都千代田区◯◯町◯◯丁目
地番 ◯番◯◯
地目 宅地
地面積 100平方メートル
建物を相続させる、遺贈する場合
建物は「所在」と「家屋番号」を書きます。
登記簿謄本どおりに「種類」「構造」「床面積」も記入します。
(2)建物
所在 東京都千代田区◯◯町◯◯丁目◯番地◯◯
家屋番号 ◯番◯◯
種類 居宅
構造 木造かわらぶき2階建
床面積
1階 60平方メートル
2階 60平方メートル
銀行の預貯金を相続させる・遺贈する場合
第◯条 遺言者は、東京わらび銀行千代田支店に預託してある預金債権の全部を、遺言者の長男田中昌幸に相続させる。
第◯条 遺言者は、遺言者所有の以下の預貯金を長男田中昌幸に相続させる。
記
東京わらび銀行 千代田支店 普通預金 口座番号 3333333
ゆうちょ銀行 一九八店 普通預金 記号11222 番号1234561
具体的な金額を書かないことで、引き落としなど変更があっても対応できます。
株式を相続させる・遺贈する場合
第◯条 遺言者は、遺言者の長女田中華代に遺言者所有のすべての株式を相続させる。
現金を相続させる・遺贈する場合
第◯条 遺言者は、金500万円を遺言者の孫田中宗一郎に遺贈する。
「その他すべての財産」で遺産分割の負担を回避しましょう
遺言書に書いていない財産は、遺産分割の対象になります。
「その他すべての財産」についての相続や遺贈する相手を書いておくことで、遺産分割協議の負担を回避させることができます。
第◯条 遺言者は、第○条乃至第◯条を除く、遺言者所有のその他すべての財産を、妻田中花子に相続させる。
お墓の管理や葬式を行う人の指定(祭祀主宰者)
仏壇や墓などを「祭祀財産」といい、祭祀主宰者が受け継ぎます。
第◯条 遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として、長男田中昌幸を指定する。
遺言の内容を実現する人の指定(遺言執行者)
遺言の内容の実現を担う人が遺言執行者です。
相続財産の管理などを行います。
以下のような人で、遺言を残す本人よりも年少者がおすすめです。
・一番多くの遺産を取得する遺贈者
・遺言作成を相談した専門職
未成年や破産者は遺言執行者になることができませんのでご注意ください。
一人、または数人の遺言執行者を指定できます。
第◯条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、長男田中昌幸を指定する。
第◯条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として次の者を指定する。
住所 東京都千代田区◯◯町◯◯丁目◯◯番◯◯
職業 行政書士
氏名 行政太郎
生年月日 昭和◯年◯月◯日
付言は「最後のメッセージ」
「付言」といって、家族への感謝の気持ちや遺言の内容にかかわる動機などメッセージを書くことができます。
法律上の効果はないので、書かなくても大丈夫です。
うらみごとなどはトラブルのもとですので書かないようにしましょう。
家族みんなには感謝しています。もめることはないと思いますが、私が書いた遺言書どおりに財産を分けてくれることを願います。
日付と署名押印は正確に
正確な日付と署名を記入します。
印鑑は認印でも可能ですが、信ぴょう性を高めるため実印をおすすめします。
また、二人以上が同じ遺言書で遺言を残すことはできないので連名はNGです。
令和4年◯月◯日
東京都千代田区◯◯町◯丁目◯番地◯
遺言者 田中一郎 実印
◯年◯月◯日生
以上です。
いかがでしたか。
想像より簡単に書くことができたのではないでしょうか。
全文記入例
まとめたものは以下のとおりです。
もちろん全て自筆で書くことが求められますので、上記の例を参考にして書いてみてください。
「財産目録」を作ることで自筆を省略できます
パソコンなどで財産目録を作ることで自筆を省略できるようになりました。
不動産の場合は、所在、地番・家屋番号等により、物件が特定できれば、登記事項証明書の一部分やコピーを財産目録として添付することも可能です。
通帳のコピーを財産目録として添付する場合は、銀行名・支店名・口座名義・口座番号等がわかるページをコピーします。
ページごとに通し番号(1/2、2/2などです)をつけ、すべてのページに署名押印が必要です。
法務局の保管制度を利用する場合は遺言書本文と同様の余白が必要です。
封筒の書き方
封筒も全て自書します。
遺言書 在中
裏書 開封を禁ずる
遺言者の死後すみやかに家庭裁判所に提出して検認を受けること。
令和4年◯月◯日
遺言者 田中一郎 実印
昭和◯年◯月◯日生
遺言書の作成日と同じ日時を記入します。
遺言書に押印したものと同じ印鑑で封印します(法務局に保管する場合は封はしないでください)
書き損じた場合は新しく書き直しましょう
書き損じや変更の場合、法律では以下のように厳しく書き方が定められています。
・訂正箇所の押印
・訂正箇所の指示と署名
(最下段:上記2中、3字削除3字追加 遺言太郎)
書き損じた場合は基本的に新たに作成することをおすすめします。
従来の保管方法
これまでは遺言書を自身で保管するか、信頼できる者(遺言執行者や相続人)に預けるしかありませんでした。
遺言執行者や相続人などに預ける場合は、本人用に写しをとっておき、財産の資料なども一緒に預けます。
法務局に遺言書を保管できる新制度がスタート
令和2年7月から、法務局に自筆の遺言書を保管してもらう制度が始まりました。
保管してもらう場合は、遺言書の形式が正しいかどうかの確認(内容の確認はしません)がおこなわれます。
これにより、裁判所の手続きが不要になり、紛失や偽造を防ぐこともできます。
手数料(遺言書1通3900円など)がかかります。
遺言者が希望した場合、遺言者が指定した1名に限り、遺言者の死亡の後で役所の死亡届などと連携して遺言書を保管していることが通知されます。
しかし、いざという時のため、遺言執行者に保管について伝えておくほうがよいでしょう。
遺言のメンテナンスをしましょう
遺言書を作成した後でも、相続人との関係性や財産の内容(不動産を売ったり譲ったりした)、本人の気持ちがかわることは大いにあり得ることです。
そのため、遺言書は年に1度など定期的に見直して、必要に応じて内容の変更をしていくことをおすすめします。
一度書いた遺言書は自由に変更・撤回が可能です。
特に財産を売ったり譲ったりした場合、受け取る相続人や受遺者(遺贈を受ける人)が亡くなってしまった場合、遺言を実現する遺言執行者が体調不良になった場合などには、内容に大きな変更が必要ですので、あらたに作成することをおすすめします。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
このブログでは今後、遺言書の書き方のバリエーションを豊かにそろえる予定ですのでそちらもお楽しみにしてください。
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