同姓婚をめぐる裁判で、各地で認められていない現状が違憲状態との判決が出されているのは喜ばしいですね。
このシリーズは「別姓」婚を認めてほしいという希望も込めて書き記しているわけですが、背景にある問題は同性婚が認められないことと似ています。
「夫婦が別姓だと子どもが混乱して家庭が崩壊する」という考えがごく一部にあるようですが、「選択的」夫婦別姓制度ですので、嫌な人は選択しなければ良い、それだけなんですね。
子どもについても責任を取るのはその親であるカップルですから、他人にとやかく言われる筋合いはないと思うのです。
同性婚もそうです。
「認める」(上から目線で嫌いですが)ことで生じる不利益は社会にも他人にも何もなく(家庭が崩壊したところでその本人にしか不利益は生じないわけですし)、認められないことで受ける不利益は個人に重くのしかかるというアンフェアな状況を放置してはいけないと思います。
熱くなってしまいました。
さて第3回となる今回は、開業登録を終え、実務をしていく上で必要な、
1、電子申請のための電子証明書取得
2、税金の申告は旧姓でも可能か(契約書や領収書の宛名は)
3、報酬を受け取るための口座開設(クレジットカードについても)
以上3点について書いていきます。
開業前にもうっすらと不安があり、実際に手続きの段階に入ると旧姓を理由に壁にぶつかるといった感じでした。
2と3については社会保険労務士固有ではありませんが、個人事業主として仕事をしていく場合に気になることではないでしょうか。
どなたかの参考になれば幸いです。
電子証明書の取得
そもそも電子証明書とは
社会保険労務士のお仕事の中には、労働・社会保険にかかわるさまざまな手続きがあります。
たとえば従業員が入社した際の社会保険の「資格取得届」や退社したときの「離職証明書」などです。
これらの手続きを、紙の用紙で行う場合、用紙に記入し郵送や窓口に持参する必要があります。
その手間を省き、インターネットに接続できるパソコンがあれば、いつでもどこでも入力し申請できるようにするのが電子申請です。
資本金1億円以上の企業が電子申請が義務化されたように、電子申請の流れはこれからも広がるでしょうし、何よりいつでも申請できるというメリットが大きいため、開業の際は電子申請ができるようにしようと考えていました。
便利な電子申請ですが、導入のためにはいくつかの準備が必要です。
そのひとつが「電子証明書」です。
電子証明書とは
電子申請の際、申請者が送信する電子データが原本であること、改変されていないことを証明するためのもので、実印に相当するものです。
https://shinsei.e-gov.go.jp/contents/preparation/certificate
代理人が事業主等の本人に代わって電子申請を行う場合は、代理人の電子証明書と事業主等の本人の電子証明書が必要となります。
電子申請を行う行政サービス「e-Gov」のホームページでもこのように説明されています。
会社が電子申請を行う際にも取得が必要です。
社会保険労務士や税理士など士業が電子申請を行う際の電子証明書は「社会保険労務士電子証明書」といって、社会保険労務士番号や開業かどうかなど個人のものよりも多くの情報が含まれた電子証明書が必要となります。
これによって、会社が電子証明書を取得していなくても社会保険労務士が代理で電子申請ができる(委任状のようなものは別に必要です)というイメージですね。
個人の電子証明書を発行する認証局はいくつかあるのですが、社会保険労務士電子証明書については全国社会保険労務士連合会が窓口になっているセコムの「セコムパスポート for G-ID」を取得するのが一般的ではないでしょうか。
私が見つけられていないだけかも知れませんが、ほかにも社会保険労務士電子証明書を発行している認証局があるのでしょうか。
この電子証明書を取得するために市町村が発行する印鑑証明が必要になります。
印鑑登録は旧姓も可
お住まいの市町村で印影を登録することで、登録された印鑑が本物であると証明する印鑑証明を発行してもらえます。
登録した印鑑を実印といいます。
この印鑑登録ですが、「通称利用の拡大」政策の一環で、旧姓でも登録できます。(手続き上は前回紹介した旧姓を併記した住民票を使用します。)
ただし、登録できる印鑑は一本だけなので、旧姓か戸籍名かどちらか一方のみ登録できるということです。
旧姓で活動したい、と考えたときからあれこれ調べて旧姓で印鑑登録できることは知っていましたから、旧姓で登録するつもりでした。
そのために開業準備として職印のほかに旧姓で印鑑も作成していました。(実印にする予定だったのでちょっといいものにしました)
窓口でちょっとしたトラブル
いざ役所で申請するとなった際には、窓口の方に「旧姓では印鑑登録できません」(キッパリ)と言われてしまいました。
あまりにキッパリとした物言いだったので、事前に調べていたのに困惑してあやうく諦めるところでした。
しかし、気を取り直して「できるはずなので確認してください」と伝え少し待っていると、上長に確認してくれたのか「可能です」との回答でした。
旧姓で活動しようとあれこれやっていると、このたぐいの、「ぽかんとされる(想定されてない)」「なんでわざわざという態度」「制度を知らない困った人扱いされる」などは日常茶飯事で、なんども心が折れそうになります。
電子証明書の添付書類として旧姓は不可
何はともあれ「できる」わけですから、意気揚々とちょっといい印鑑(旧姓)で登録しようとしました。
しかし、フト不安がよぎります。
「添付書類として、旧姓の印鑑証明ではダメってことないよね?」
いてもたってもいられず、窓口のはずの全国社会保険労務士連合会に電話をかけたところ、セコムへかけるよう言われセコムの担当者と話すことになりました。
そこで「旧姓で社会保険労務士登録されており、活動もやっていくが、電子証明書取得の際の添付書類である印鑑証明は旧姓で大丈夫か」という旨の話を伝えました。
この時点の私の気持ちは、連合会には旧姓で登録されているし、むしろ戸籍名の印鑑登録のほうが混乱を招くのでは、というものでした。印鑑登録も旧姓でできるんだから大丈夫だろうと。
しかし、セコムの回答は「戸籍名の印鑑証明を提出して」というものでした。
「通称利用の拡大」とか、旧姓でも印鑑登録できるようになったことなども伝えましたがだめでした。(窓口対応の例のように担当者が知らないだけということが往々にしてあるので)
すぐさま印鑑登録を中止し、実印に登録する戸籍名の印鑑を発注。
今度は最安値のものです(それでも値は張ります)。
戸籍名の印鑑が届いてからは粛々と役所で手続きを済ませセコムへ提出しました。
コロナ禍でハンコ文化が大きく変化し、脱ハンコの流れに大賛成なのですが、旧姓の氏名が吉相体(実印にする印鑑でよく使われる書体)で彫られた印鑑を手にしたときはテンションが上がったものです。
しかし、旧姓の印鑑は早くもお蔵入りになってしまいました。
第一回でお話しした「アイデンティティ」のレベルで、公的に認められた名前は法律名だけだと突きつけられているような残念な気持ちになりました。
国も自治体も認めているのだから、セコムなどの民間企業も対応を急いでほしいですね。
税金の申告
お次は税金についてです。
個人事業主は確定申告が必要です。
私は青色申告ですので、売上や経費などを会計帳簿につけていくことになります。
相手からお金をいただく際に取り交わす、契約書や領収書などは基本的に(相手から求められない限り)旧姓で記名・署名・押印(職印が主です)しています。
こちらがお金を支払った際に受け取る領収書の宛名も基本的に旧姓です。
旧姓で領収書発行できる?
そこでこんな疑問がわきます。
疑問①旧姓で契約書や領収書を発行していいの?
こちらはインターネットで検索するとオーケーみたいですね。
ちなみに私は税務署にも相談し確認しました。
ただし、契約の内容によっては、戸籍名による署名・押印が求められることもあるようです。
大きな企業や、大口の取引などの場合でしょうか(ご縁はなさそうです)
ここがNGであった場合、名刺やパンフレットに記載している活動名(旧姓)と領収書や契約書に記載する名前が異なるわけですから、取引相手からすると混乱しそうですよね。
なので少しホッとしました。
前提として、きちんと帳簿づけなどの会計処理を行っている必要があるそうです。
旧姓と戸籍名の領収書が混在してもいい?
続いての疑問はこちら
②開業前ややむを得ず戸籍名で支出した経費の扱いはどうなるの?
開業前は戸籍名のクレジットカードで書籍や設備などへの支払いをしていました。
また、開業後も相手方から戸籍名による取引を求められた場合や、そもそもクレジットカードは戸籍名で登録されている(屋号で取得できるビジネスカードもあるそうですが今のところ挑戦できていません)ため、領収書などの氏名が旧姓と戸籍名のものが混在することになります。
こちらはOKだそうです。
税務署に確認しました。
日常的な記帳が適切になされていれば問題ないとのことです。
税の申告は戸籍名
ここで、疑問①②の前提についてもお話しします。
そもそも税金の申告は旧姓でできるのか、です。
答えはNOです。
税金関連の申告は戸籍名でしか受け付けてもらえません。
税金に関しては、選択的夫婦別姓制度を導入してほしい1番の問題点(同性婚も同じです)ですからうっすら想像はしていました。
いわゆる法律婚と事実婚の違いですね。
事実婚だと・・・
・所得税の配偶者控除が受けられない
・法定相続人になれない
・相続税、贈与税の控除が受けられない
「通称の利用拡大」政策でたしかにいろいろな場面で旧姓を使うことができるようになりましたが、肝心要の税金の部分は法律婚優位に代わりないわけです。
そういうわけで、税金の申告は法律名だけれど、領収書などは旧姓で提出することになる(混在している)ことに問題はないだろうかという疑問でしたが、特に問題はないということでした。
口座の開設
個人事業主とか開業とかで検索すると、「事業用の口座・クレカ・財布は作るべし」という解説サイトがたくさん出てきます。
実際、少ない売上とたくさんの経費を日々記帳する中でも、「事業用の口座・クレカ・財布は作るべし」は本当に大切なことだと実感しています。
売上を入金してもらう口座を開設しようということは開業前に決心していました。
その口座を屋号(まつうら社会保険労務士事務所)+旧姓で開設したいとも思っていました。
契約書や請求書には振込先を記載しますが、そこが戸籍名だと取引先が混乱してしまうかもというのが大きな理由です。
あとは単純に沖縄に引っ越してから地元の銀行で口座を持っていなかったのでどちらにせよ作りたいというのもありました。
そこで沖縄の地方銀行(沖縄銀行・琉球銀行・海邦銀行)を調べてみました。
ホームページなどで旧姓口座開設可能と分かるのは海邦銀行のみです。
沖縄の中での利便性を考えるとトップ2(沖縄銀行・琉球銀行)が良かったので電話で確認したところ、琉球銀行の方では旧姓・通称・屋号等で口座開設が可能とのことでした。
ちなみに郵貯は旧姓口座の開設は行っていないようです。
近所にある琉球銀行の支店に出向き口座を開設しました。
ここでも窓口で説明するのがとても大変で、「なぜわざわざそんな面倒なことをするのか」という対応に、自分自身も「なんでこんな面倒なことをしているんだろう」という気持ちになりましたよ。
ともあれ、無事に(?)「屋号(まつうら社会保険労務士事務所)+旧姓」で口座を開設することができました。
うろ覚えですが、通称届のようなものを窓口で記入・提出したと思います。
しかし、問題がないわけではありません。
琉銀ではアプリを使って残高や入出金の確認、送金などができるのですが、なんと屋号付きの口座ではそのアプリが使えません。
とっても便利なので早期対応を望みます。
意外な?落とし穴
これで、名刺、見積もり、契約、振込まで一貫性をもって旧姓で活動できる準備が整いました。
しかし、意外な盲点というか、調べが足りなかったのですが、一般的なクレジットカードでは引き落とし先口座としてクレジットカード名義と同じ口座しか指定できないのですね。
業務用クレジットカードとして、使っていなかった戸籍名のカードを使うつもりでいたのですが、残念ながら引き落とし先として屋号付き口座を指定できないのです。
苦肉の策ですが、戸籍名の口座を開設してそちらをクレジットカード引き落とし先に指定しています。
一部ビジネスカードでは屋号付き口座を引き落とし先に指定できるようですが、もはや力尽きてしまい、今に至ります。
まとめ
いかがでしたか。
1、電子申請のための電子証明書取得→戸籍名の印鑑証明が必要
2、税金の申告は旧姓でも可能か(契約書や領収書の宛名は)→申告は戸籍名だが領収書等は旧姓も可
3、報酬を受け取るための口座開設(クレジットカードについても)→屋号、通称、旧姓可だが制限あり
について見てきました。
いずれも準備段階では思いつくこともできず、いざ手続きに進んで初めて、ダメなことがわかったり複雑な手続きを踏めばできたりと右往左往してきたことがわかっていただけたかと思います。
これらは戸籍名で活動すれば全く問題にならないことです。
旧姓で職業活動をしようと思うと突き当たる壁ということになります。
ぜひとも選択的夫婦別姓制度が導入されて、後進の皆さんが同じ苦労をせずに済むようにしてほしいものです。
このシリーズはひとまず③で終了ですが、実務上で困ったことなどが生じたら番外編も作ってみたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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