労働者が、税金や社会保険料などによって手取り収入を減らさないように、労働時間を調整する「年収の壁」。
これまで、主に男性正社員に扶養される女性が家計補助的に働く場合に、「年収いくらまで働いたら逆に損をする」など「ライフハック(生活の知恵)」のような形で使われてきました。
社会保険料は値上がりを続けていますから、働いている時間が増えるのに手取りが変わらないか減ることもあるなんてもったいないと思うのも無理はありません。
この「壁」のせいで、主に女性が働く時間を調整し、扶養の範囲にとどまろうとするため、女性の社会進出が妨げられているという批判もあります。
今回、社会保険の適用拡大(あとで解説します)や最低賃金の引き上げなどで「壁」を突破する労働者が増加することから、政府が急きょ「支援強化パッケージ」と銘打ち助成金を発表したことで話題になりました。
しかし、そもそも複雑な「壁」や社会保険制度のせいで、助成金も複雑化。あいまいな部分も多いため、「年収106万の人は一人につき50万円」などの誤解も広がっています。
このブログでは何回かにわけて「年収の壁」のそもそもから助成金について、活用できるのかどうか解説していきます。
この記事では以下のことがわかります。
・「年収の壁」とはそもそも何なのか
・誰がどんな場合に対象になるのか
それではみていきましょう。
4つの「年収の壁」
手取り収入を減らさないように働く時間を調整する「年収の壁」は以下の4つがあります。
①およそ100万円・・・住民税の対象となる壁
②103万円・・・所得税の対象となる壁
③106万円・・・社会保険の対象となる壁
④130万円・・・社会保険上の扶養から外れる壁
①については自治体によって異なるため割愛します。
実際には②が多いようですが、今回は助成金についての記事となるため③と④をみていきます。
「106万円の壁」
上では「社会保険の対象となる壁」と書いていますが、106万円を超える人が全て、この「壁」の対象になるわけではありません。
ひとまず結論は、
現時点では「101人以上」の会社で働く労働者が「壁」の対象です。
対象になる人とそうでない人がいるため、今回の助成金はわかりにくくなっています。
まず106万円という数字がどこから出てくるのか。
これは、賃金が「月8万8千円」以上という基準です。
88000円×12ヶ月=1,056,000円≒年収106万円というわけですね。
そもそも、正社員以外で、社会保険に加入させる義務がある労働者というのは、正社員の4分の3以上の時間や日数働く人という決まりがあります。
しかし、「一定の規模」より大きな会社では、さらに短い時間しか働かない人であっても社会保険に加入させてくださいねという制度があるのです(特定適用といいます)。
社会保険の加入が義務付けられる労働者の条件は以下の通り
・所定内賃金が月88,000円以上
・所定労働時間が週20時間以上
・学生でないこと
「一定の規模」より大きな会社は、この3つの条件全てを満たす労働者を社会保険に加入させる義務があります。
この「一定の規模」が、当初は大企業クラスであったものが、少しずつ小さくなり中小企業クラスも対象になりつつあるのが今の状況です。
【対象企業規模】
501人以上・・・2016年10月〜
101人以上・・・2022年10月〜
50人以上・・・2024年10月〜
少しずつ規模が小さくなり、対象になる会社が増えていることが分かります。
会社の規模によって「106万円の壁」の対象にならない場合があることがわかっていただけたかと思います。
「130万円の壁」
次に④130万円の壁です。
年収が130万円までなら、配偶者の社会保険の扶養に入ることができます。
言い換えれば年収が130万円を超えると配偶者の扶養から外れ、自身が社会保険に加入する必要があるということです。
こちらは、会社の規模に関係なく対象になります。
月額にして10万8000円ほどです。
余談ですが「年収」はいつからいつまでか疑問が湧く時があると思います。
長く勤めていると年度とかわかりやすいのですが、中途採用や途中でやめた場合などに、どの時点からの収入について考えたら良いのが疑問が生じます。
扶養する側が加入する制度によっても異なりますが、例えば協会けんぽであれば加入時点から1年の収入(見込み)を考えます。
共働きの夫婦で一方が退職した場合、それ以後1年間の収入(ただし失業給付なども含まれる点に注意が必要です)を考えるということですね。
まとめー助成金の対象となる「壁」は?
まとめると「106万円」「130万円」の壁は、どちらも社会保険の適用(扶養から外れる)が義務となるラインということです。
金額の違いは会社の規模によって異なり、大きな会社から中規模の会社へと対象が拡大しています。
今回の「年収の壁・支援強化パッケージ」で対象になるのはどの「壁」でしょうか。
答えは、③と④どちらも対象ということになります。
社会保険の適用拡大(③で解説)や最低賃金の引き上げで壁を越え、社会保険の適用となった人が対象ということです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回は、「年収の壁・支援強化パッケージ」がどのような助成金なのか、企業にとってお得かどうかなどを解説します。
コメント