南城市商工会さんにお呼ばれして、労務管理についてお話ししてきました。
商工会の職員さんも含め10人以上の参加(ありがとうございます)となり、若い方も多く参加していただきました。
セミナー内容は、労務管理の初歩「会社の立ち上げ、従業員を雇用したときに必要な手続き」についてです。
適切な労務管理を行うことで、
1、法的リスクの回避
2、優秀な人材の確保・定着
3、公的助成金の活用
などのメリットがありますよ、という話や
労働者名簿や出勤簿(タイムカード)、賃金台帳などの「法定3帳簿」を作成・保管する大切さや、従業員を雇い入れる際に明示する必要のある労働条件についてご紹介しました。
今回はそれに加えて「次の一歩」として、10人以上の従業員がいる場合に作成が義務付けられる就業規則についても少しだけ解説しました。
就業規則は統一的な労働条件を示すことができること以外に、公的助成金の要件を満たしているかどうかなどをチェックする際にも必要となるため、10人未満の事業所でも作成をおすすめしています。
以下のキャリアアップ助成金についての記事をぜひご覧ください。
1分の遅刻で15分の賃金カットは可能?
前置きが長くなってしまいました。
この記事では、セミナーの質問の時間でいただいた「遅刻と減給」の関係について少し詳しくみていきます。
いただいた質問は「遅刻した場合に減給しても良いか」というものでした。
ノーワーク・ノーペイの原則
遅刻した分の賃金を差し引くことは可能です。
ほかにも早退・欠勤なども同様となります。
これは「ノーワーク・ノーペイの原則」といって、勤務した時間に対応する賃金を支払うことが原則であるからです。
勤務していない分の賃金を差し引いても何ら問題はありません。
注意 完全月給制の場合
ただし、注意点もあります。
雇用契約や就業規則などで、遅刻や欠勤にかかわらず給与を支払うという趣旨の規定や約束がある場合です。
これは「完全月給制」といって、遅刻や欠勤による賃金のマイナス(控除)をしないという取り決めになっています。
完全月給制の場合は遅刻や欠勤でも賃金を減額することはできません。
上記のような回答をお伝えすると、重ねて質問をいただきました。
「では、1分遅刻して15分ぶんの減給は可能か」
周囲ではそういった運用を行なっている事業主も多いということでした。
対応する時間を超える場合は「制裁」となる
質問への回答として結論を先に述べます。
「1分の遅刻で15分ぶんの賃金カット」は可能だが、慎重に行うべき
どういうことか見ていきましょう。
「1分の遅刻で15分ぶんの賃金カット」のような、遅刻や早退の時間を超える減給はノーワーク・ノーペイの原則に当てはまらないため、「制裁」(減給の制裁)となります。
事業主が企業の中での秩序を維持するために、ルールを守らない従業員に対して「制裁」を行うことは、ある一定の範囲内で必要であり認められています。
上記結論で述べた「可能」とはこの意味においてです。
ただし、どのような制裁であっても認められるということではありません。
以下のような制限があります。
制裁の制限①あらかじめ決めておく
まず、従業員に制裁(懲戒処分)を課すためには、その種類およびその程度、どのような処分を行うか等をあらかじめ明らかにしておく必要があります。
つまり、遅刻を制裁の対象とすることを就業規則などに規定しておく必要があるということです。
労働契約の際に、労働契約書や労働条件通知書、就業規則などで、「従業員にちゃんとお知らせしましょうね」という項目に「制裁」も含まれており、規定するだけでなく知らせなければなりません。
雇入れの際に明示すべき項目
1、労働契約の期間について
2、有期労働契約の更新の基準
3、就業の場所や従事する業務について
4、始業・就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交代制勤務がある場合は就業時転換の内容について
5、賃金の決定、計算と支払いの方法、賃金の締め切りと支払い時期および昇給について
6、退職について
7、相談窓口(パートタイム労働者、派遣労働者)
8、退職手当の定めが適用される労働者の範囲、計算と支払いの方法、支払いの時期について
9、臨時の賃金(退職手当を除く)や賞与について
10、労働者に負担させる食費、作業用品その他について
11、安全・衛生について
12、職業訓練について
13、災害補償と業務外の傷病扶助について
14、表彰・制裁について
15、休職について
上記の項目のうち1〜7までは絶対に明示(書面で)しなければならないものです。
8以降は、制度がある、実施しようとしている場合に明示(書面でなくてもよい)すべき項目となっています。
このうちの「表彰・制裁について」が今回の「減給の制裁」というわけです。
従業員との間で制裁についても労働契約の内容としておくということですね。
一般的には就業規則において、遅刻・早退・欠勤などについては従業員の服務規律の項で定め、服務規律に反する処分を懲戒・制裁の項目に定めるという方法をとります。
余談ですが、事前に制裁の内容を伝えておく(違反があった場合は客観的に処分する)というのは、子育てや教育においても当てはまる大切な原則だと思います。
そもそも制裁の内容(どのような行為がルール違反となるか、またどのような罰がくだされるかなど)がわからなければ、使用者(保護者や教師等)が自分勝手に(そのときの気分などで)基準をさだめて罰することもできてしまい、従業員(子ども)は常に顔色をうかがってびくびくしなければならず健全な関係とはいえません。
また、制裁の目的も、同じ違反を繰り返させないために行うもの(違反をさせない抑止でもあります)だと思いますので、処分そのものよりも、どのような行動を取れば良いのかがあらかじめわかっていることの方が教育的にも重要です。
制裁の制限②罪と罰のバランスをとる
従業員のおこなったルール違反(今回の場合は遅刻)に対して、課される処分がバランスがとれている必要もあります。
軽い違反行為に対して重い処分を貸すことは権利(懲戒権)の濫用となり認められません。
また、何度も違反を繰り返した場合に、軽い処分から重い処分に移行していくなど、段階的に処分を判断する必要があるという点でもバランスは重要になります。
そのほかにも、手続きを定めた場合はそれに従う必要があることや、一つの違反行為に二重に処分を行ってはいけないなどもポイントです。
制裁の制限③減給には限界がある
処分とひとくちに言っても、訓告・けん責・減給・出勤停止・停職・降格・諭旨解雇・懲戒解雇などさまざまです。
どのような種類の処分とするかは、法令や公序良俗に反しないかぎり使用者の自由に決めて良いことになります。
その中でも「減給」については、従業員の生活に与える影響の大きさから、法律で限界が定められています。
・1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えない
・総額が1賃金支払い期における賃金総額の10分の1を超えてはならない
(ただし超えた分は翌月以降に延ばすことが可能)
以上の2点です。
つまり「遅刻1回で1日分の減給とする」などの罰則を課すことはできません。
また、「遅刻2回で1日欠勤とみなす」という規定はどうでしょうか。
1回の金額で半日分を超えないのであれば、2回で1日分の賃金カットは有効に見えます。
しかし、これも一般的には無効と判断されます。
2回の遅刻を1つの事案とみなしているということと、処分の程度が重すぎると判断されるからです。
制限のまとめ
さて、制限を簡単にまとめると以下のようになります。
・あらかじめ遅刻を制裁の対象として、処分の方法などについて就業規則等に定めておく
・違反の内容(頻度など)とバランスのとれた処分にする
・減給できる上限は決まっている
これを踏まえた上で質問内容を見てみましょう。
「1分の遅刻に対して15分ぶんの減給が可能か」
あらかじめ就業規則にさだめていた場合は「可能」だということがわかります。
減給の制裁は慎重に
その上で、「慎重に行うべき」とした私の考えは以下の通りです。
まず「賃金の控除」と「減給の制裁」は似ていますが全くの別物です。
ノーワーク・ノーペイの原則にしたがって働かなかった分の賃金を差し引くことが「賃金の控除」で、これは当然に行うことが可能です。
しかし、1分の遅刻で15分の賃金を差し引くというのは、働いている14分ぶんを支払わないということになるため、解説してきたように「減給の制裁」となるのです。
制裁については、法律上は「減給の制限」を超えず、就業規則等に規定していれば可能ですが、遅刻しただけで減給の処分を下すという規定を置いている会社はそう多くないと思われます。
遅刻といっても、災害などやむを得ない場合や病気や体調不良の場合もあるからです。
1分の遅刻で一律に15分や30分など働いた分も賃金をカットされてしまうというのは、処分が重すぎると感じられ、不信感が生じても仕方がないといえます。
また、1度の遅刻で減給の制裁が行われた場合は懲戒権の濫用ともとられかねません。
雇用契約や就業規則などは従業員と雇用主との約束、信頼関係に基づいて行われるものです。
そのため一般的には、遅刻や欠勤を事前届出制にし、無断の遅刻や欠勤を何度も繰り返すような場合に、けん責など軽い処分から検討することが考えられます。
その他の問題点
「周りの事業所でもそのような運用を行なっている」という質問者さんの意見をよくよく考えてみると、
賃金の計算を「15分単位」「30分単位」で行なっているということではないかと思われます。
本来は、労働時間(遅刻も残業も)は「1分単位」で把握し、賃金を算出する必要がありますが、「15分単位」などの運用を行なっているところはいまだに多いのではないでしょうか。
この場合、この記事で述べてきた「制裁をあらかじめ規定する」などの点に加え、「未払い賃金」などの問題も生じることになってしまいますので注意が必要です。
まとめ
いかがでしたか。
「社会人にとって遅刻は許されないから(余分な)賃金カットも当然」という「常識」も、適切な労務管理という視点からみると、スンナリとは通らないことがわかっていただけたかと思います。
無断で遅刻や欠勤を繰り返すような社員に処分を下したいと思っても、就業規則などにあらかじめ規定していなければならないということですので、「就業規則の作成はリスク回避のためにも重要である」こともわかっていただけたら幸いです。
弊所では労務管理などのセミナーを行う際は全体や個別で質問・相談の時間を必ず設けるようにしています。
電話や問い合わせフォームからのセミナー開催も受け付けておりますのでぜひご活用ください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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