名護の商工団体さんにお呼ばれしてお話ししてきました。
3月の那覇に引き続き、会社の立ち上げや人を雇う際に必要な手続きがテーマでした。
主催の皆さんが尽力してくれた甲斐もあり、たくさんの参加者が集まってくださいました。
基本的な労務管理についてでしたが、「やらなきゃいけないけど何から手をつけたら良いのか」とほったらかしにしてしまっていたり、昔ながらのやり方で法改正に対応できていなかったりすることもあるので、皆さん熱心に聞いてくださいました。
お話しした内容の中から、労務管理の意義と、雇用契約を結ぶ際に必要な「労働条件の明示」について、来年度から施行される法改正も併せて紹介します。
適切な労務管理を行う意義は
採用から評価制度、賃金の計算や労働・社会保険の手続きなど、企業の「ヒト」に関わることすべてを総称して人事労務管理と呼ばれています。
この人事労務管理が適切に行われなければ、法的リスクが生じるだけでなく、従業員とのトラブルによる離転職が多発するなど、企業にはさまざまなデメリットが起こります。
今回のセミナーでは以下の3点を適切な労務管理のメリットとしてあげました。
・法的リスクを回避する
・優秀な人材の獲得、定着
・助成金を受けるための前提条件
とくに3点目の助成金を受けるための前提条件であるというところは、参加者の皆さんにも新鮮だったようです。
労務管理というと、いかにも面倒なことを法律で義務付けられているからやらなければいけない、というマイナスなイメージでとらえられがちです。
しかし実際には、法律の義務だからとりくむということ以上に、従業員との関係改善や生産性向上、資金繰りにもつながるというポジティブな側面があります。
例えば法定3帳簿と呼ばれる
・出勤簿(タイムカード)
・賃金台帳
・労働者名簿
なども、法的リスクを回避するためだけに形を整えたものや、昔ながらの押印のみで済ませる出勤簿(罰則はありませんが、現在では法的義務違反であり避けた方が無難です)などが散見されます。
助成金を受けるためには(助成金の申請の際に必要な添付書類の形式としては)、出勤・退勤の時刻を記録した出勤簿が必要があるということなどをお話ししました。
現在はスマートフォンで出退勤を記録できるソフトウェアもあり、弊所でも導入支援を行っておりますが、そういったツールを使うことも考えられます。
適切な労務管理を進めていき、助成金を受け資金繰りも行えるような企業体になっていくための伴走支援を、「労務チェック顧問」などのサービスで展開しています。
新たな労働条件の通知が必要です【令和6年】
さて、人を雇う際には労働契約を結びます。
労働契約そのものは口頭の約束でも結ぶことができます。
しかし、労働契約を結ぶ際に、賃金や働く時間などの労働条件のいくつか重要な部分は、労働契約書や労働条件通知書、就業規則など書面で明示しなければならないと法律で義務付けられています。
1、労働契約の期間に関する事項
2、有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項
(通算契約期間または有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限)
3、就業の場所、従事すべき業務に関する事項
(就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲を含む)
4、始業・就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合における就業時転換に関する事項
5、賃金(退職手当および⑦を除く)の決定・計算・支払い方法、賃金の締め切り・支払い時期、昇給に関する事項
6、退職に関する事項(解雇の事由も含む)
7、退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払いの方法および支払い時期
8、臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与、最低賃金額等に関する事項
9、労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
10、安全・衛生に関する事項
11、職業訓練に関する事項
12、災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
13、表彰・制裁に関する事項
14、休職に関する事項
このうち1〜6の事項(2は有期契約の場合のみ)は必ず明示しなければならず、7以下の事項は定めがあるか、または実施しようとする場合に明示することとされています。
また1〜6の事項(昇給に関する事項を除く)については、労働者に対し書面(労働者が希望した場合は、FAXで電子メール、SNS等)を交付して明示しなければなりません。その他の事項については口頭でもさしつかえありませんが、労働契約書に記載するか、就業規則を採用労働者に交付するかして、文書により明示することが望ましいと言えます。
令和6年4月からの変更点
書面で明示する必要のある項目のうちの2点、赤字で記した部分が令和6年4月から新たに記載が必要となる項目です。
2、有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項
(通算契約期間または有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限)
これまでも、有期雇用の契約を結ぶに当たって、更新する場合があるかどうか、その基準はなにかを記載する必要がありました。
これからは、それらに加えて、契約の更新回数に上限がある場合はその上限を記載する必要があります。
これは有期雇用の無期転換と関わる改正になります。
有期雇用の場合、通算5年を超える契約期間から無期転換申込権が発生します。
従業員の申し出があれば、有期雇用の終了の翌日から無期雇用が始まるというものです。
契約の更新は「あり」でも、通算5年を超える前に雇い止めにする、というような取り扱いをする場合に、あらかじめ従業員に知らせておかなければなりません。
無期転換を期待させて、寸前で契約打ち切りというような状況をつくらないためですね。
これからは有期雇用の従業員を採用する際には、少なくとも無期雇用転換をするのかしないのかを会社の方針として定めておく必要があるということです。
3、就業の場所、従事すべき業務に関する事項
(就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲を含む)
こちらは全ての従業員が対象となります。
これまでは雇入れ時の就業場所や従事すべき業務を記載しておけばよかったのですが、今後は変更の範囲を明示する必要があります。
とはいえ、就業の場所等を限定する場合に具体的な記載が必要なのであり、限定しない場合は「会社の定める就業場所」などの記載でも大丈夫です。
就業場所や業務について、これまでのように無限定ではなく、あらかじめ変更の範囲を従業員と話し合っておくことで、従業員が安心して働き続けることができるということですね。
また例えば、複数店舗を構える小売業などで、従業員が勤務していた店舗を閉鎖する場合などに、当該店舗に限定しておけば正当な解雇とされる可能性が高くなりますが、限定がない場合にはそのような取り扱いが難しくなるといったケースも考えられます。
会社のリスク回避のためにも、就業の場所や従事すべき業務を限定すべきかどうか考える必要がありますね。
さいごに
いかがでしたか?
労務管理セミナーでは、法人の立ち上げや人を雇う際に「最低限」(法律で義務付けられている)必要なことをお伝えしています。
法律で義務化されていても対応できていない事業所さんは少なくありません。
今回の質疑応答でも多く寄せられた、年次有給休暇を取得させる義務についても同様です。
義務化されてかなり経ちますが、事業主の皆さんは本業の多忙さもあり、法改正をキャッチすることが難しいことの現れだと思います。
法律を振りかざすのでもなく、見て見ぬふりをするでもない、助成金による資金繰りまで見越した支援ができるのが社会保険労務士の仕事であり使命でもあると感じています。
どんなに基本的なことであっても、セミナーや個別相談で誠実にお答えいたしますので、ぜひお問い合わせください。
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